3 双子の護り手 レーベの村では知らない者のいない双子の姉妹がいる。姉がシャイア、妹がシャイラという紛らわしい名前を生まれたときに授かった。 それは何故か。 名前を似せることで運命が2人を選び間違えるかもしれないからである。 その効果は未だ定かではない。 しかし、運命が彼女たちのうちの1人だけを選び去る日は必ず来る。そして、残された1人は運命さえも切り開いて行くだろう。2人の誕生の時に村に現れた美しい銀髪を持つ占い師はそう告げたという。 姉妹は父がそうであったように自然に村の「護り手」を志すようになる。護り手とは村をあらゆる外敵から護る重要な役割。選ばれた村の戦士10人だけが護り手として名乗り、アリアハン城に上ることが許されていた。 姉のシャイアは剣で、妹のシャイラは武道でと進み行く道は異なってはいたが、目的地は違えてはいない。 後に、堅実な性格の姉が戦士として、翌年、奔放な性格の妹が武闘家として護り手に選ばれることになった。 「これは・・・・・?」 シャイアは手渡された封書に驚きを隠せなかった。ただの封書ではない。裏には蝋の封印が施され、獅子の紋章が描かれている。 「アリアハン国王直々の封書。」 妹のシャイラは悪戯っぽい瞳で姉を眺めている。その驚きは彼女の予想以上に大きく、悪戯心を満たすには十分だった。 「わたしたちに勅命が下ったのよ。噂の勇者の娘の護衛としてね。」 シャイアもアリアハンの勇者・オルテガのことは知っている。そして、彼に一人娘がいて、彼女もまた父親と同じ道に進もうとしていることも。彼女の護衛だったら城にいる騎士たちだって良いだろうに、何故わたしたちに? 女だからか?いや、王宮戦士にも女性はたくさんいる。歳が近いからか?でも、若い戦士ばかりということが旅のメリットになるとは考えられない。たとレーベが小さな村だからといっても「護り手」が2人も抜けてしまったらどうなるか王だって分かっているはずなのに。 「どうして、私たちに?」 疑問は尽きない。アリアハン王は何を考えてこの選択をしたのか? とにかく、国王の命であれば疑問があろうと逆らうわけにはいかない。2人は早速旅の準備を整え、ライアの到着を待つことになった。 ライアがアリアハン城に上る数日前、国王の元にセレシュという銀髪の占い師が現れた。彼女はその身を「女神の欠片」と称し、運命の波動に潜む者と答えた。 「北に住む双子の護り手が勇者の旅を護り続けるでしょう。」 セレシュは国王が問いかけることには答えず、ただその一言だけを「未来」であると言った。 もちろん、国王は占い師の言葉を信じ、北の地レーベに住む双子の護り手シャイアとシャイラにライア護衛の勅命を書き記した封書を届けさせたのだ。 途中で助けた子供を親に送り届け、ライアとロイセはレーベの村に足を踏み入れた。彼女たちはまず宿を借りて、久しぶりの屋根のある場所で休息を取り、湯を使って身体を洗い、新鮮でみずみずしい食材を口にした。落ち着いたところで、彼女たちはここからどうするかを相談していた。 オルテガの足跡はレーベから西に行った後突然途絶えている。アリアハンは島国だから遠くネクロゴンドに行くためには何らかの手段で海を渡らなくてはならない。つまり、島の西に海を渡るための「何か」があるはず。そうライアは考えていた。 「西はアリアハン未開の地。十分な装備が必要ですね。」 「未開の地、だけにちゃんとした地図があるかどうか・・・・?」 2人の持っている地図はアリアハン東部のものである。この世界で旅をする者たちはまず何よりも地図が必要になる。村から離れればその分命の危険もあるし、万が一のことがあっても助けが来てくれることはほとんどない。より安全な道を選ぶことが冒険者の必須条件なのだ。 「とにかく、まずは地図を探さないと。」 ライアは立ち上がり外に足を向け、ロイセもその後に従った。 まずは地図探し、とそれらしい店の軒を何度かくぐった。その中の1軒が店ではなく、「護り手」の詰め所に立ち寄ってみたらどうか、と教えてくれた。 「この道を真っ直ぐ行った右の方に大きめの建物が詰め所です。」 店番は立ち上がって店の前の道を指し示した。その指示に従い、彼女たちはその詰め所と呼ばれる建物に足を踏み入れた。 「こんにちは、誰かいますか?」 入り口の扉を半分まで開いてライアが建物の中に声をかける。そこに現れたのは彼女よりも2、3年上の女戦士だった。 「何か御用ですか?旅のひと。」 彼女は黒い髪を後ろに束ね、革でできた鎧のパーツを胸や肩、腰など要所に身に着けていた。剣は腰に差してあり、ちょっとした警備ならこのままで事足りそうだ。 「西アリアハンの地図を探していて、ここにならあるという話を聞いたのですけれど。もしよろしければ私たちに1枚くださいませんか?」 ロイセが丁寧に申し出る。 「西アリアハンの地図、ね。ちょっとこの辺で待っててもらえる?今探してくるわ。」 女戦士は2人を建物に招き入れ、待合い室のような部屋に案内した。そして彼女は別の部屋へと去っていった。 しばらくして、女戦士が現れた。しかし、彼女の装備は革鎧ではなく武道用の衣になっていてその髪型も高く結い直してあった。 「こんにちは、旅の人。」 彼女はライアたちに挨拶し、部屋の奥に消えようとした。 「ちょっと待って!地図はどうしたんですか?」 ライアは頭が混乱しそうだった。さっき彼女とした会話は何だったんだろう。 「地図?何のこと?」 目の前の彼女は地図のことなど全く知らないような素振りを見せている。 その時、部屋に誰かが入ってきた。 「ライア、あれって・・・・・。」 ロイセがライアの腕を引く。彼女が指した方には革鎧をきた先程の女戦士がいた。もちろん、その手には地図らしき紙もある。 「えっ、双子?」 ライアたちの前に現れた謎の女性たちは服装は異なるが、顔はそっくりだった。それを知らないライアが勘違いをしても不思議はない。武道衣の女性が声を上げて笑う。 「ライア、わたしたちは双子なの。わたしはシャイラ。あっちの戦士が姉のシャイアなの。びっくりした?別に驚かすつもりはなかったの。」 「どうして、わたしの名前を・・・?」 女戦士シャイアがライアの手を取った。 「失礼をお許しくださいね、ライア。私たちはアリアハン王のよりあなたの旅のお供を言いつけられたのですわ。」 あまりにも突然の出来事でライアもロイセもは状況がよくつかめなかった。だから、彼女たちはゆっくり頭の中でこのことを整理しなくてはならなかった。