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13 死の大地


美貌の女王の統べる

熱と砂の国。

そこには何もなく、

そして全てが存在する。

アッサラームからネクロゴンドに向かうためには砂漠の王国イシスの領土を通らなくてはならない。ライアたちはルディナから駱駝を借り、途中彼女の隊商から離れて一路南へと向かっていた。
今まで経験したことのない砂漠の旅に苦しみながら、黙々とその歩を進める。草原地方では当たり前だった水辺や木陰の全くない旅。時折吹く風も涼やかなものではなく、まるで真空の呪文『バギ』のような鋭さと炎の精霊の息吹のような熱を帯びて旅人たちに襲いかかる。昼間は太陽が容赦なくその背を照らし、夜は月が熱を奪い去ろうとする。この砂漠こそが目指す死の大地かと思えるくらい過酷な環境。
しかし、彼女たちを苦しめているのは自然だけではなかった。草原よりも遙かに凶暴な砂漠に住む魔物たちにも気を配らなくてはならないのだ。
シャイラが気配を捉え、後に続く仲間に注意を促す。彼女の視線の先には大きな砂山。しかし、程なくその目の前の砂山が崩れ始める。
「来たなっ!」
最初にその砂山に向かったのもシャイラ。彼女の右手にはカザーブで手に入れた鉄の爪を装備している。そしてライア、シャイアと続く。2人はそれぞれの剣に手をかけていた。残ったロイセは移動せず、魔法の準備をしていた。
完全に砂山が崩れ、その下に潜んでいた魔物が大きな蟹の姿を現したとき、最も遠い場所にいたロイセの呪文が3人の攻撃よりも早く発動した。
「偽りの衣を消し去る光となれ!」
『ルカニ』の呪文は目標の装甲を弱める効力があり、固い殻に覆われた魔物には有効な魔法の一つといわれている。魔法の光に怯んだ蟹の魔物−地獄のハサミ−に次なる攻撃が加えられた。その弱まった甲羅の最も薄い部分にシャイラの鉄の爪が傷を付ける。地獄のハサミはその名の由来ともなっている巨大なハサミを振り回し、シャイラに狙いを定めた。次の瞬間、そのハサミの根元に2人の戦士が次々と切り込み、魔物の攻撃を阻止せんとする。だが、地獄のハサミは苦痛にもがきながらも最初の狙いを変えることなく襲いかかる。振り上げられたハサミによる攻撃を受けたシャイラは一瞬空を舞い、背中から地面に叩きつけられた。
「シャイラ!!」
大きく咳き込みながらも立ち上がろうとする彼女に次の魔法を唱えようとしていたロイセが駆け寄り、回復の呪文に切り替える。
同時に、ライアの剣が最初にシャイアが攻撃した部分を再び斬りつけ、更に奥の組織を傷つけていた。それが致命傷となり、地獄のハサミは崩れ落ち、動かなくなった。

ネクロゴンドは鋭い岩山に囲まれた地方でイシス領とを結ぶ山道が唯一の陸路となっている。火山の麓から伸びるその道は標高差が激しく、旅の難所としても知られていた。イシス側の入り口には小さな祠が一つあるだけで、2大国を繋ぐ道であるにもかかわらず、行き交う人もは多くはない。
「オアシスがないから、仕方ないですね。」
さすがに疲れの色は隠せない。しかし、ロイセの言うとおり、砂漠で生活するにはオアシスの存在が欠かせない。水の少ないこの地域では古くから砂漠に住む遊牧民族以外の人間が暮らすことは難しい。ライアたちも旅人向けに開放している祠にたどり着いた頃には疲労が極限まで達していた。限りある水で喉を潤し、体を拭く。ロイセの白い肌やシャイアの長い髪もこの厳しい旅の間にすっかり傷んでしまっていた。
「やっと、ネクロゴンドの入り口まで来た・・・・。」
そう口にするライアの表情は複雑だった。父オルテガの最期の地が目前に迫っている中、真なる旅の目的を悟り始めた彼女にとって、ネクロゴンドという地は今まで以上に特別な場所となっていた。
丸一日体を休めた後、彼女の旅の舞台は砂漠から高原へと変わる。その高原がライアの最終目的地。若き女戦士の旅は佳境を迎えている。誰もがそう信じて疑わなかった。

翌日の朝、気温が上がりきらない内に祠を出発し、ライアたちは熱砂の王国に別れを告げ、高原の帝国へと足を踏み入れようとしていた。砂漠ほど自然の猛威を感じない分、山道は肉体的な疲労は大きいものの、体力の消耗は格段に少ない。数刻も歩き続けると彼方に火山が見え始めた。火の山ガイア。炎の精霊を統べる火の神ガイアに因んでそう名付けられたと言われており、今なお灰色の噴煙を上げ続けている。そのガイア山にたどり着く頃には、祠を出発してから半日経っていた。
「すごい・・・・。」
無数の岩が転がり、かつての噴火によって焼き払われたまま時間が止まってしまったかのような光景が眼下に広がっていた。上ってくるときには多少生き物を確認することができたが、この高原には生命の気配がほとんどない。
「本当にこの土地は死んでいるわ。」
むき出しの赤茶色の土は既に植物を育てる力を持っていないようだった。乾ききった土を手に取りシャイアが呟いていた。命を育む土が既に死に絶えているこの場所で一体何が育つだろうか?
「まずは、火口まで行ってみよう。」
ライアが知っている父の足取りはこの付近で途絶えている。そして、それと同じ時期、ガイア山の噴火が起きているのだ。彼女は父が噴火に巻き込まれたと考えていた。世界にその名を知られた勇者オルテガが魔王によって倒されたとは考えたくない。それは彼の子として生まれたライアののささやかなプライド。
しかし、火口へ向かう彼女たちの行く手を阻む存在が現れる。突如、周囲の岩が崩れ落ち、火口へ向かう唯一の道が塞がれてしまう。火口への道はすなわち山を越えネクロゴンド奥地へ続く道でもあった。突然の出来事に一瞬呆然としながらも、それが自然に起きたものではないことに気付く。
「『イオラ』・・・・?」
『イオラ』は爆発を引き起こす強力な攻撃呪文。禁忌とされる最上位『イオナズン』より威力は劣るものの、修行を積んだ魔法使いが扱うことのできる最も危険な呪文の一つとして知られている。
「侵入者よ、我が父の元より去れ!」
その声はまだ若い女性のもの。白磁の肌に深紅の瞳の魔女が道を塞がれた冒険者たちの前に現れた。その魔女の後ろには魔物の姿も確認できる。
「我らは魔王バラモスに仕える戦士。招かざる客たちよ、これ以上の進むというならば容赦しない。」
その言葉が終わらないうちに彼女の手からは攻撃魔法が繰り出されようとしていた。
「私たちには戦う意志はない!」
ライアが剣の柄から手を離して魔女に呼びかけた。
「ならば、この場から立ち去れ。さすれば危害は加えぬ。」
戦うべきか、退くべきか。このときライアの脳裏では二つの選択肢が浮かび、どちらを選べばよいのか図りかねていた。先程の『イオラ』の威力を見ても、この魔女は相当の実力があることが分かる。後ろに控えている魔物の存在を加味しなくても互角に戦える相手とは考えにくい。しかし、だからといって簡単に退くこともできない。
「無断で領土を侵したことは謝ります。あなた方の主張通りこれ以上ネクロゴンドの地には踏み入れません。」
シャイアがライアの一歩前に出て魔女に申し出た。
「シャイア、それでは、私たちは・・・・!」
背後からロイセの非難の声が上がるが、シャイアは一度だけ彼女の方を振り返り、その言葉を制した。今は戦うべきではない。戦士としての直感が警告を発しているのだ。確かにここで退けば目的は果たせない。だが、ここで目の前の魔女と戦い、ライアが命を落とすことになれば、護り手たる自分たちに与えられた使命を全うしたことにはならない。そして、それは妹も同じ意見だった。
「今は、ここを立ち退いた方がいい。」
釈然としないままのライアとロイセを連れ、閉ざされた道の入り口へ4人の冒険者たちは引き返して行く。行きと同じ時間をかけて祠まで戻り、そこから一番近い街、砂漠の王国イシスへ向かうことになった。

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