王子の初恋
「もう少しゆっくりしていってくださればいいのに・・・・。」
マリアが名残惜しそうにつぶやいた。
「あまりゆっくりもできないんです。ビアンカも待っていますから。」
「そうですわね。また来てくださいね。」
「ぜひ、今度はビアンカと一緒に・・・・。」
ケリンが夫妻に挨拶をしている間、双子は城門で父がやってくるのを待っていた。
「マリン!」
アクアが露骨に嫌な顔をする。マリンは声の主であるコリンズに近づく。
「どうしたの?コリンズ。」
コリンズは背中に何かを持っているようだ。しかし、彼の動作がどことなくぎこちない。
「オレ、マリンを泣かせちゃったから・・・・ごめんな。」
そう言って彼は持っていたものを差し出した。それは、緑色の帽子。虹孔雀の羽が一枚飾られている。それは、『風の帽子』と呼ばれる魔法の帽子だが、受け取ったマリンも渡したコリンズもそのことを知らない。
「マリン!何やってるんだ!?」
アクアがマリンに声をかける。マリンはアクアの方に目を向けた。
「今、行く!」
マリンはその帽子を自分の頭に載せて、コリンズの方に向き直り、にっこり微笑んだ。
「ありがとう、コリンズ。わたし、大切にするね。」
その微笑みにコリンズの胸が少しだけ高鳴っていたことに本人は気付いただろうか。
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