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[ 5 扉を開いて ]
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5 扉を開いて

「どうして、こんな大切なものを、わたしに・・・・?」
自分自身の旅に持てば決して無駄ではないのに。あまりにも優しすぎるその若い勇者の瞳はまだ濁りがない。澄み切ったその光は闇に飲まれたリージェの心さえもはっきりと映し、照らし出すことができるだろう。
リージェは野山を横行する魔物たちを恐ろしいと思ったことはない。自らの保身のために他を攻撃する運命は生きゆく者たちがこの世界に誕生したその時から始まっているのだから。
「人間の方がどんなに恐ろしいか・・・・。」
その希有な容姿のためにリージェは幼い頃から畏怖の対象であった。世間は彼女を精霊の子と言い、魔物の子と言った。彼らは愚かな自尊心を守るために彼女の精神を攻撃した。しかし、ライアは違った。なぜなら彼女も生まれた瞬間から大きな運命を背負っていたのだから。偉大なる勇者オルテガの忘れ形見。ライアはライアである前にオルテガの子という見えない姿を創り出されているのだ。周囲はみなライアをそんなフィルタを通して見ている。しかし、ライアのその瞳にはそんなフィルタは存在しない。
「いい娘だから、心配なんだよ・・・・。」
先刻までその少女がいた場所に、リージェはいた。彼女にはライアがこれから出会うであろう数々の困難が目に見えるようだった。様々な世界へ旅立ってもライアは今まで通りの純粋なライアでいられるだろうか?その心が外界のくすんだ色に染まらないだろうか?
そんな考えを巡らせていくうちに、リージェは一つの結論を導き出していた。

「この鍵・・・・ある程度の簡単な扉なら開けられるように細工がしてありますね。」
ロイセがまじまじと鍵を見つめながら言う。シャイアがそんな彼女の手元を覗き込む。
「さすが鍵破りのバコタの鍵、ね。」
一方、ライアとシャイラはそんな彼女たちの後ろを歩いていた。
「ライア、次に行くべき場所は分かってるね。」
黙ってライアが頷いた。突然、北の大陸にその足取りが移った父のアリアハン最後の目撃地が西端の泉であったという。
「オルテガ殿はおそらく泉のそばにある洞窟に行ったんじゃないかと思う。あそこには『旅の扉』があるからね。」
瞬時に遠く離れた場所を超えることができる魔法の泉、『旅の扉』を使えばオルテガの足取りが突然移動してしまったことも説明がつく。
「今でもその洞窟を使っているの?」
「さぁ・・・・。大陸から密かに逃げて来た人間がいるとか、入り口が崩れて入れないとか、いろんな噂はあるけど、実際の所わたしも行ったことがないからわからないな。」
「でも、『旅の扉』があるということは間違いないんでしょう?」
「昔、昔と言っても10年以上前だけど、年に何回か商人の行き来があったからね。」
「どうして、それが途絶えてしまったのですか?」
いつの間にかロイセも話に加わっていた。
「魔物だよ。北の大陸は死の大地ネクロゴンドに最も近い場所。海を隔てて大陸から隔絶されたアリアハン島を守るためにすべての往来を禁止したという訳。」
「そして、この国の人々を守るためにその洞窟を封印したのよ。あなたのお父様、勇者オルテガが旅立ってすぐにね。」
単純に鎖国を行えば他国、特にネクロゴンドと地続きになっている国々からは激しく非難を浴びるだろうと考えて、アリアハン国内のみならず名が知れ渡っているオルテガを差し出した。それを卑怯だと考えるか英断と取るかは微妙なところだが。
少なくとも、今までアリアハン国内ではある程度の平和が保たれている、ということは確かだった。しかし、自ら国を閉ざしたために世界の動きがなかなか伝わらず、オルテガの最期を確かめることができなかった。国王はせめてもの償いのためにライアを世界へと旅立たせたのだろうか。
「とにかく、リージェが教えてくれた場所に行って『旅の扉』に近づけるかどうか確かめないと。」
リージェは彼女の師、バコタの同胞が封印された『旅の扉』への道を知っているという。ライアたちはまずそのバコタの同胞がいるという泉の祠に立ち寄ることにした。

「いいの、ライアと一緒に行かなくて?」
人気のなくなったナジミの塔でリージェに問い掛ける声があった。
「まだ、ね。あの娘にはいろいろ恩があるから。どうしても渡してあげたいものがたくさんあるの。」
世界中に散らばる名器という名器をすべて目覚めさせる。リージェには目的があった。ライアはアリアハン国王の公認という大義名分の名の下で旅をすることができる。しかし、常に迫害されてきた彼女にはそんな日向の道を歩むことはできない。
「ライアが太陽でリージェが月。そんな感じね。」
「それでも後で語られるときに私の名前がライアと共にでるなら文句はないね。」
それに、この銀の髪なら月と呼ばれても不思議はないし。なかなか格好いいと思わない?リージェは満足げに笑いながら付け加えた。

往復に約1週間かけてナジミの塔から帰還したライアは丸1日レーベで休息を取った後、今度は西端の泉に出発していた。今回からは正式にシャイア・シャイラの2人が旅に同行する仲間となる。
「経験も私たちよりも多いし、頼もしいですね。」
ロイセはもともと戦闘向きの性格ではないのでライアと2人で旅をしているときは自分が足を引っ張っているような気持ちに常に駆られていた。しかし、双子が仲間になった今は神官としての自分の役割を果たせばいい、という安心感に変わっていた。もちろん、ライアにとっても良き先輩としてもっと効率よく自分の技を磨くことができるし、双子の加入は本当に頼もしいものとなった。
「ま、アリアハンの魔物ならわたしたちが出る間もないだろうけどね。」
「そうね。ここで私たちの力が必要になるようでは大陸に行ってから先が思いやられるものね。」
双子は強気だが、それもライアたちを仲間と認めた上での態度だということも分かっていた。彼女たちはお互いの性格と力量を十分に知り、それぞれの役割を徐々に明確にしながら西に向かって旅を続けていた。
アリアハン島の西はまだまだ未開の地方であり、途中で現れる魔物もアリアハン城やレーベ付近で出会うものよりもやや手強いものが多い。今まで大地を走るものしか相手にしたことのなかったライアにとって人面蝶や蠍蜂などの空飛ぶ魔物は対処に困る相手であった。始めのころはまるで初心者のように闇雲に剣を振り回していたが、回数を踏む度に少しずつではあったが、無駄な動きが削られてきていた。
「上ばかり見ていたら自分の平衡感覚がおかしくなるから相手の動きを予測して自分も動きなさい。あくまで自分が先に動くつもりでね。」
同じ剣を持って戦うシャイアがライアに正確に指示を出す。ライアとてある程度剣の心得があるから、指示を受ければ身体はきちんとついてくる。
「次、来るわ!」
シャイアが万一に備えて自らの武器に手を添えながら叫ぶ。ライアが示された方向に目を向けると、ちょうど蠍蜂が体の向きを変えて尻尾の針を構えようとしていた。動きが止まったその一瞬に彼女の照準が定まった。息を止めて剣を振り上げ、そして振り下ろす。蠍蜂の固い表皮が砕け、その死骸が大地に落ちる。ライアの口からゆっくりと息が吐き出された。
「かなり硬さが取れてきたね。」
剣をしまったライアにシャイラが声をかける。彼女も他の蠍蜂を倒した後だった。
「空を飛んでいるから、という苦手意識が無くなって来たような気がする。」
「傷も随分減ってきましたね。少し前までは全身傷だらけだったというのに。」
ロイセがライアに駆け寄って『ホイミ』の呪文を唱える。シャイアもいつもの穏やかな表情に戻って今までどおり先へ先へと進んでいく。3人もその後に続いていく。
レーベの村を出てもう5日ほど過ぎていた。平地にあったその道は山道に変わり、今は林の中を走っている。ほとんど人間も通らないので獣道と大差ないのが現状だ。
「そろそろ泉が見えてくるはずね。」
空を見上げ、かろうじて見える太陽を確かめてシャイアがふと洩らした。
「かなり水辺が近い。苔の生えかたが水辺のものに近づいてきている。」
そう言いながら、目的地である泉を求めながら彼女たちがしばらく進んでいると、先頭を歩いていたシャイアがついに泉を目の当たりにした。まもなく、他の3人もそれと同じ光景を目にする。
「思っていたより大きな泉ですね。」
確かに、ロイセの言う通り、泉は湖と言えるほどの大きさを持っていた。そして、ライアはその周囲にあるという祠を見つけていた。
「これが、リージェの言っていた祠・・・・?」
石造りのその建物はミニチュアの教会のような形をしていた。入り口には木の扉があり、周囲には人間の住んでいる気配があった。
「ライア、かな?」
建物の中から年老いた声がした。どこかから彼女たちを覗いているのだろう。
「そうです。あなたはバコタの知り合いの方ですか?」
「知り合い、というほどの者でもないがね。とにかく、扉を開けよう。」
その言葉が終わり、がたがたという物音がした後、木の扉が開いた。中から現れたのは声から想像した容貌と同じような姿の老人だった。彼の肩には良くなついた伝書鳩が止まっていた。
「話はリージェから聞いているよ。今、洞窟は封印されている。『旅の扉』を使うことはできない。」
「やっぱり、話は本当だったんですね・・・・。」
「だが、この魔法の玉を使えば話は別だ。ただ、この玉は今まで封印を解くには威力がありすぎる。国王の許可が無ければ派手にやることはできなかった。」
「大陸と秘密裏に交易するには・・・・ということですね。」
「そうだ。これを使えばすぐにばれてしまう。しかし、やっと封印を解けるときが来た。ライア、お前が来るのを待っていたよ。お前が大陸に出るにはここを通るしかないからな。早速洞窟に行って封印を解いてやる。」
そう言って老人は奥から木箱を抱えて外に出た。そして泉に沿って林の奥へと進んでいく。ほどなく、洞窟の入り口が現れた。老人はためらうことなくその洞窟に入っていく。4人の冒険者たちもその後に続く。階段を降り、しばらくまっすぐな通路を進むと行き止まりになった。突き当たりの壁は明らかに周囲のものよりも新しい。
「これが、封印の壁・・・・。」
壁をゆっくりと眺める間も無く、老人は箱から玉を取り出し、壁の中央に掘り出してあった窪みに置いた。
「できるだけ、壁から離れるんだ。かなりの衝撃が来るからな。」
5人は玉を確認できるぎりぎりの場所まで下がった。そして、老人がゆっくりと両の手を胸の前に持っていく。
「『ギラ』!」
閃光が壁に向かって走る。一筋の光が壁にたどり着いた瞬間、ものすごい爆発音が轟いた。
「埃が、すごい・・・・。」
激しくせき込みながら、ライアは視界が戻るのを待った。もうもうと立ち込める砂煙が落ち着いてくると、何が起こったのか理解するのは簡単だった。
「壁が・・・・!」
新しい壁の部分に人が通れるくらいの穴が出来ていた。そしてその奥に鉄の扉があった。
「この向こうに『旅の扉』が!」
ライアが扉に駆け寄り、手をかける。しかし、鍵がかかっているらしく開く気配が無い。
「ライア、リージェから鍵を受け取っているだろう、それを使え。」
老人が声をかける。ライアは慌てて腰の道具袋から鍵を取り出し、扉の鍵穴に差し込んだ。かちゃり、と鍵が填まる音がする。ゆっくりと鍵を回すとがちゃん、とさっきより大きな金属音がする。鍵を抜いてもう一度扉に手をかけると、今度は容易く扉が開く。
「開いた!」
扉の先には井戸があった。その井戸には水ではなく、光が貯えられている。
「これが、『旅の扉』・・・・。」
「ここに入れば大陸に行くことが出来る・・・・。」
4人は顔を見合わせた。そして次の瞬間、お互いの手を取り合った。ライアが老人の方を振り返る。
「ありがとう、おじいさん。わたしたちは父を追って大陸に行きます。もし、リージェに会うことがあったらお礼を言ってください。」
老人が頷くのを確認して、ライアたちはその光の井戸に身を投げた。

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