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[ 6 大陸の風 ]
[ 5 扉を開いて ] [ 7 勇者の娘 ]

深い緑が彼女の体を包み込む。

優しく、そして愛しく。

何度も目にしたその光景をしっかり焼き付けて

今、目覚める。

6 大陸の風

ロマリアは遥か昔から交易の拠点としても重要な位置を占めていた。山脈を抱える北からは木材、海を臨む南からは海産物や果物、比較的産業の発展している西からは織物、そして異なる文化が栄える東からは珍しい香料と四方の産物が行き交い、商人たちが国を大きくしてきた。
現在は魔物の影響もあり、以前ほどの大掛かりな貿易はされなくなったが、いまもなおロマリアは世界でも指折りの大都市として有名である。
ライアたちは旅の扉を経てこの大都市ロマリアにたどり着いていた。
「さすが世界中の商人が集まる町ですね。」
ライアはもちろんシャイアとシャイラもアリアハン島から出たことはないた。アリアハンの城下しか町は知らなかったのだから都市の一つ一つが珍しく、興味深いものばかりだった。
一方ロイセは幼い頃オルテガと共に一度訪れたことがあった。彼女だけが他とは違った面持ちで町並みを見上げていた。
「とにかく、宿をとってこれから必要なものを調達しないと。」
一行は大通りから一本入ったところにある旅人向けの宿屋に部屋を借りてから町の散策をすることにした。
宿屋はこんな時期でも盛況で部屋を借りようとしている旅人が何組かいるようだった。実際のところ魔物征討のための旅ではなく観光か何かが目的なのだろうということはそのいでたちから容易に推測することができる。そんな旅人たちの間でもライアたちが少しばかり目立っていたのはその装備のせいであるとも言える。
「そんな物騒な格好でどこから来たんだい?」
立派な体格の宿屋の主人は旅人、というよりは冒険者風の装備をしているライアたちに疑問を抱いているわけではない。挨拶のような軽い気持ちで声を掛けたのだ。装備がどうであれ彼女たちが十分に若い女性だったということも理由の一つであるとは思うが。
「アリアハンという島だよ、ご主人。」
主人はそんなシャイラの答えに興味を持ったらしい。帳簿をつける手を休めて彼女に向き直った。
「アリアハン?船で来たのかい?」
「いや、旅の扉でね。」
「へぇ、旅の扉はアリアハンに封印されていたと聞いていたけど、ようやく使えるようになったんだ。ま、あのオルテガ様のご子息が旅立つってことならそのぐらいしないと島から出られないからね。」
「オルテガ様を知っているんですか!?」
ロイセが思わず口を挟んでいた。
「知ってるもなにも世界の勇者じゃないか。俺は直接会ったことはないが、ロマリアの王様に謁見したらしいということは聞いたことがあるなぁ。」
ライアが驚いた表情をする。自分が初めて訪れた土地で父を知っている人がいる。彼女は改めて自分の父親の大きさを認めた。
「オルテガがロマリアを訪れたと言われているのはいつ頃か覚えていますか?」
「さぁ・・・・いつ頃だったかなぁ。随分昔のことなんでねぇ。」
「そうですか・・・・。」
ライアの残念そうな表情に主人は何かに気づいたようだった。
「あんたたち、オルテガ様の関係者なのか?だったら故郷に帰ったほうがいいよ。オルテガ様は死の大地で魔王に殺されたって話だ。もしオルテガ様と関係があるってことが知れたらあんたたちも殺されるかもしれないぞ。」
「魔王・・・・?」
「なんだ、魔王も知らないのか。アリアハンって国はとことん平和なんだな。」
宿屋の主人はこの世界を脅かそうとしている魔王バラモスについて語った。かつて美しい王国があったネクロゴンドを死の大地に変え、世界中に魔物を送り出した張本人と言われているが、その実態は定かではないという。彼の目的が一体何なのか、何者なのか、核心に迫ることのできる情報はなく、ただ漠然とした不安の固まりとして称されているようだった。
「わたしはどうしてもオルテガの最期の場所を探したいんです。」
ライアがはっきりとした口調で言った。宿屋の主人はそれ以上止めようとはせず、彼女たちが安全に旅できるように協力すると申し出てくれた。
「ここからどこにいくかは決まってるのかい?」
「まだはっきりとは決まってないけれど、どうして?」
「姉ちゃんたちの腕がどれだけあるかは知らないが、ここからいきなり南に向かうのは止めるんだな。南の魔物は相当なものらしいって話だからな。一度腕試しがてら北に行ったほうがいいぞ。」
まずは北へ。ライアたちの目的地が決まった。

ロマリアは商業都市であるという一面のほかに宗教都市でもあった。現在「僧侶」や「神官」と呼ばれる人間はほとんどここで洗礼を受けている。もちろんロイセも例外ではなかった。ここで洗礼を受け幼くして聖職者となった彼女は故郷に程近い小さな修道院に身を置いていたのだ。
「よもやオルテガ様の世継ぎと再びこの街に来ようとは。」
巨大な礼拝堂はただ静寂だけが支配し、平日の昼間には訪れる人影もまばらだった。ロイセは久しぶりに立派な祭壇で神に祈りを捧げていた。
「神よ、運命に選ばれし御子をお守りください。」
一心にライアの無事を祈りつづける彼女の耳には外の喧燥など全く入ってこなかった。だから気付かなかったのだ。
彼女たちが交わるべき運命がすぐ目の前を通り過ぎていくことを。
「あの時」と同じような風が起こった。
忘れもしない忌まわしい記憶。
しかし、今のロイセは恐怖に震える少女ではない。
ゆっくりと振り向き、その瞬間、
闇が彼女に舞い下りる。

「ロイセが帰ってこない?」
礼拝堂に行く、と言って一人宿を出たのが昼過ぎのことだから十分すぎる時間が過ぎている。ロマリア城のすぐ脇に大きな礼拝堂がここからでも見えるがそれほど遠いわけでもない。
「これだけ遅いのは心配だわ、見に行きましょう。」
シャイラは軽装のまま、ライアとシャイアは用心のため聖なるナイフを持って宿屋を出る。
「いくら熱心とはいえ、時間がかかりすぎると思う。」
礼拝堂へは大通りを城に向かっていくだけの単純な道。しかし、3人は途中その単純な道に異変があることに気付いていた。
「兵士が随分出ているな・・・・・。」
何かあったのか。漠然とした不安が過ぎる。しかし、今はロイセを探すことが先決。とりあえず先を急ぐことにする。
「礼拝堂で何かあったのかしら・・・・?」
彼女たちが目的地に近づけば近づくほど兵士が増えているような気がする。いや、それは錯覚ではなく事実のようだった。なぜなら、礼拝堂の周りは相当な数の兵士と周辺に住む野次馬たちでごったがえしていたのだから。ライアが近くに立っている一人を呼び止めた。
「何があったんですか?」
「カンタダが来たんだよ。大盗賊カンタダが礼拝堂を襲ったらしい。」
「礼拝堂を・・・・。なにか重要なものでも?」
「さぁ、聞いたことないんだよね、これが。カンタダは価値のあるものしか盗まないって言うから実はすごいお宝が隠してあったんじゃないの。」
彼は兵士たちが野次馬を追い払おうと近づいてきたのでそれだけ言うと足早に立ち去った。
「お前たちもこんな所にいないで早く帰れ。」
兵士が面倒そうにライアたちを立ち退かせようとする。
「待ってください。私たちの仲間が礼拝堂に行ったきり帰ってこないのです。彼女が巻き込まれたということはないのですか?」
「仲間・・・・?どんな奴だ?」
「わたしと同じくらいの年の女の子で髪が肩くらいまでで物静かな感じの神官戦士です。」
「うーん、いたようないないような。聞いてやるからここで待っていなさい。」
兵士はそう言い残して建物の方に消え、間もなく彼はもう一人の、おそらくここの神官と思われる人間を連れてきた。
「あなたがロイセさんの仲間の方ですか?」
「はい。やっぱりロイセはここで・・・・」
「見つかったときには倒れていましたので治療棟に連れて行きました。お名前は持ち物で分かったのですが、旅の方らしく詳しい身元が分からなかったのです。ご案内しますのでこちらへどうぞ。」
神官は礼拝堂の中にライアたちを案内し、その更に奥へと続く通路へと進んでいった。いくつかの扉を素通りした後、神官は一つの扉の前に立ち止まりその扉を開けて彼女たちを中に導いた。
「ロイセ!」
その部屋には予想通りロイセがいた。しかし、彼女はいつもよりも更に静かに彼女たちを迎えていた。
そう、静かすぎたのだ・・・・・。

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